<振り返り>演奏会〔4〕エクスペリメンタル・コンサート「レガシー ~ 武満徹の残したもの」
5月11日(金)に、演奏会〔4〕エクスペリメンタル・コンサート「レガシー ~ 武満徹の残したもの」が開催されました。
出演者は、音楽監督の徳永二男(ヴァイオリン)、作曲家の野平一郎(ピアノ)、世界的に活躍する福田進一(ギター)、宮崎出身の藤木大地(カウンターテナー)、高木綾子(フルート)、古川展生(チェロ)など。
第11回の音楽祭から続く、現代音楽を紹介するコンサート。企画監修・トークを担当される野平さんは、先日の福田さんとの対談で、「現代を生きる人々に、同じ時代を生きる作曲家の曲を聴いてもらい、何か感じ取ってもらえれば」とお話しされていました。今回は武満徹を中心に、彼の作品や彼の影響を受けた池辺晋一郎や交友のあった湯浅譲二などの作品をご紹介。
本番の様子を、リハーサル風景の写真も交え、振り返ります。
1曲目は、ナッセン「祈りの鐘 素描」作品29。武満に深い敬愛を捧げていたナッセンが、武満の死を悼んで書いた本作品。ピアノで奏でられる鐘の音が、劇的な調子で響き渡ります。演奏は野平さん。
2曲目は、武満徹「妖精の距離」。武満は、詩人・滝口修造の同名の詩から感得した“透明な感じ”を、自身が音楽の音に対して望んだものに近いと述べ、そのインスピレーションをもとに書かれた一曲。徳永さんの弾くヴァイオリンの伸びやかで抑揚がありつつも、どこかあやしさのある音色に、野平さんのピアノの透き通った音色が硬く響く、不思議な浮遊感ある演奏をお送りしました。
○リハーサル中の徳永さんと野平さん
○本番の演奏
次にお送りしたのは、いずれも武満徹の作品。谷川俊太郎が歌詞をつけた「MI・YO・TA」(野平多美編)、老境の女性の孤独を歌った「ぽつねん」(福田進一編)、武満が歌詞をつけたポップソング「翼」(福田進一編)。藤木さんの心に沁みる歌声に、福田さんのギターが寄りそうように奏でられました。本番直前に、音の大きさのバランスや曲のイメージが伝わるかなど、入念にチェックを行っていました。本番では、お二人の演奏に拍手がなかなか鳴り止まず、アンコールとして武満徹「死んだ男の残したものは」が演奏されました。
○(左から)本番中の福田さんと藤木さん
休憩後、まずお送りしたのは池辺晋一郎「君は土と河の匂いがする」。大学生の頃書いた作品が武満の目に留まり、一時期武満のアシスタントを務めたこともある池辺。演奏者は高木綾子(フルート)、福田進一(ギター)、小林美樹(ヴァイオリン)、安藤裕子(ヴィオラ)、山本裕康(チェロ)の5名。フルートの高く跳ねるような音色に、ギターをはじめとした弦楽器が呼応し、緊張感がある独特な世界観を作り出す五重奏曲をお送りしました。
○リハーサル中の5名
○本番の様子
次にお送りした曲は、野平さんの「波の記憶」。演奏者は、野平さんと約40年の付き合いがある福田さん。先日の、野平さんと福田さんの対談によると、福田さんからギターが出せる音について話を聞きながら、様々な奏法を取り入れて作られたとのことです。「波の記憶」についてもっと詳しく知りたい方は、ぜひ野平さんと福田さんの対談映像をご覧ください。
○本番中の福田さん
最後にお届けしたのは、湯浅譲二の「弦楽四重奏のためのプロジェクション」。若い頃から、武満と総合芸術グループ“実験工房”を結成するなど、付き合いのあった湯浅が手がけた作品を紹介しました。出演者は、漆原啓子、川田知子(ヴァイオリン)、安藤裕子(ヴィオラ)、古川展生(チェロ)の4名。「弦楽器はこんな音がするのか、といったサプライズの連続」を楽しんでほしいと語った野平さん。伝統的な弦楽四重奏とは違った、新たな弦楽四重奏をお楽しみいただきました。
○リハーサル中の4名
○本番の様子
曲間には、野平さんの楽曲紹介や解説などが入りました。
演奏会終了後、高校2年生の山尾さん、甲斐さん、森さんの3人にお話を伺いました。3人とも学校の吹奏楽部でフルートを演奏されていて、高木さんの演奏を聴きに来てくれたようです。
高木さんが演奏された池辺晋一郎の“君は土と河の匂いがする”について、「緊張感が最初から最後まであり、作られていく曲の雰囲気に引き込まれ、10分以上の演奏時間があっという間に感じました」「複雑に絡む五重奏の中で、高木さんのフルートが浮き出て曲の印象を変えたりしていて、楽器の一つ一つが合わさってこの曲が成り立っていると感じ、好きな一曲になりました」「奏者皆さんの表現力がすごく、いろいろな刺激をもらいました。今後自分の表現に活かしていきたいと思います」とお答えいただきました。
また、一番気に入った曲を伺うと、「福田さんと藤木さんの演奏に感動しました。プロの声楽家の歌声を聴き、詩の言葉一つ一つに込められた思いが強く伝わる、楽器では出せない、人間だからこそできる表現なんだと感じました。」「『波の記憶』が、印象に残りました。野平さんの、同じ波は一つもない、という言葉をしみじみと感じる個性的な曲でした」「湯浅譲二さんの『弦楽四重奏のためのプロジェクション』。様々な弦楽器が、こんな音も出るんだ、と新鮮に感じる曲でした」と、3人とも様々な現代音楽を楽しまれたようでした。
最後はメインビジュアルの前で記念撮影。インタビューにご協力いただき、ありがとうございました。
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